強いAIの実現方法 ~実践的な作り方~

強いAIの実践的な作り方を検討しています。メイン記事に主張をまとめています。人工知能関係の書評もあり。なお、今後、任意団体として活動してみたいと考えており、手伝ってみたいという方は是非ご連絡下さい。詳しくは、メイン記事の7を参照下さい。

「脳 回路網の中の精神」を読んだ

脳 回路網の中の精神 M・シュピッツァー著 2001年 新曜社

「科学とは、しっかりとしたモデルをつくるところにその本質がある」

 本書を読み進めていたため、1ヶ月以上更新が出来なかった。もともとは、脳の構造、メカニズムについておさらいしようと「メカ屋のための脳科学入門」を読んでみたのだが、その中で本書が紹介されていた。

 読んでみると、実際の中身よりもまず、著者の教養の高さを感じた。知識人が書いたと思わせる文章で格調高い。そして、著者には哲学があり、そこがぶれていないので一貫した体系になっている。

 基本的には、ヘブの法則、そしていくつかのネットワークが紹介されており、主な論点は以下の通りと思う。

  • 脳のメカニズムは、基本的回路原理の元に、学習をすることで成立している。脳の容量は少なく見積もっても125万MByteだが、遺伝子の容量は750Mbyte程度であり、ほとんどの回路は学習により形成される
  • 脳は超並列であり、解はほぼリアルタイムに出力される
  • 脳は可塑性を持つ
  • 脳の自己組織化の仕組みはコホーネン・ネットワークと呼ばれ、釣鐘状の強度分布で学習が進む。中心の勝利ニューロンから離れると、抑制が働く
  • 自己組織化により、大脳皮質にマップが形成され、身体上で近いものはマップ上も近い。
  • 一般的構造を学習するには、教師つき学習はゆっくり進めるべきである(汎化のことか)
  • ニューラルネットのうち中間層が、概念を代表する役割をもつ(DeepLearningの時代にはちょっと古い話か)
  • 全てのニューロンが他のニューロンとつながってフィードバックがある回路は、ホップフィールドネットワークと呼ばれる
  • 中間層に付随するコンテクスト層を持つネットワークはエルマンネットワークと呼ばれ、時間の概念をもたらす
  • 脳が意味を扱う場合も、自己組織化により意味ネットワークが形成される
  • 例えば分裂症の症状は、適切なネットワークシミュレーションにより説明でき、精神医療の分野でも有効なツールである。

 上記のような各論とともに、モデルによるネットワークのシミュレーションにより、生理学的、心理学的に脳の理解を進めることができる、というのが大きなテーマである。

  • モデルとは常に現実の単純化である。単純さにより、脳を観察していたのでは得られなかった洞察が得られる。
  • 科学とは、しっかりとしたモデルをつくるところにその本質がある
  • 良いモデルは、複雑な事象・事態の本質的な側面を写し取る
  • モデルとは真でもなければ偽でもなく、応用可能か、多くに事柄に当てはまるか、よりよくあてはまるかが問われる
  • 良いモデルを手にすれば、「一般的な原理」を見抜くことが出来る

 これが著者シュッピッツァ―の哲学だが、ニュートンの力学の法則等、科学の偉大な原理を思い起こさせる。

 

 原著は1996年発行であり、ディープラーニングがまだ無かった頃、ニューラルネットがバックプロパゲーションの発明により2回目のブームを迎え、これで強いAIが出来るとの楽観的な見方が一部にあった頃だ。20年が経過した今、この本の最新バージョンを書いて欲しいと切に願う。そのためには、科学の本質を理解した著者が待たれるのであろう。

 この本に述べられている内容では、残念ながら強いAIを作ることは出来ない。そこまで議論が至っていない。
 しかし、脳の仕組みは本来シンプルであり、学習により複雑になっていること、その一般的原理を見出せば良いということが良く分かる。ブルックスもその著書で、まだ強いAIの原理が見いだせていないということを述べていた。

 当ブログでは、強いAIにとって、外界、身体、脳の相互作用が本質であることを再三述べている。それを一般的原理に昇華させ、原理の有効性を示せるシミュレーションをやるべきであり、それは、モデルのあるべき姿を通しシュッピッツァ―が示した道でもある。

 それにしても偉大な本であり、何度か読み返し理解を深めたい。