強いAIの実現方法 ~実用化に向けた実践的な作り方~

強いAIの実践的な作り方を検討しています。メイン記事に主張をまとめています。人工知能関係の書評もあり。なお、今後、任意団体として活動してみたいと考えており、手伝ってみたいという方は是非ご連絡下さい。詳しくは、メイン記事の7を参照下さい。

「岩波講座ロボット学6 ロボットフロンティア」を読んだ(前編)

ロボットフロンティア 岩波講座ロボット学6 2005年 岩波書店

 2000年代初め、ホンダのP2、アシモの衝撃から10年ほどたち、アイボが販売されてまもなく、日本のロボット工学が世界一流の勢いだった頃、岩波書店がロボット学という7巻もののシリーズを刊行した。本書はその6巻目である。
 余談だが、3巻目のタイトルが、画像処理で日本にとどまらず世界を代表する金出武雄先生の「コンピュータビジョン」となっていて、筆者も大いに期待して楽しみにしていたのだが、結局出版されていないと思う。

 本書は、当時のロボット工学の最先端を紹介する内容であり、MEMS、マイクロナノロボット、メディカルロボット、ヒューマノイド等が取り上げられているが、本ブログでは、人工知能に関係する2つの章について紹介する。

 第2章 脳科学とロボティクス

 柴田智広先生による、計算論的神経科学の紹介である。15年前の記事であり、現在柴田教授は介護ロボティクスを中心に活動されている模様だ。

 計算論的神経科学とは、デビット・マーという研究者が1969年に提案した、小脳の計算モデルに端を発する、脳及び身体で行われていることを計算理論にしていきましょう、という分野である。人間を情報処理装置としてとらえたとき、計算目的を理解し、アルゴリズムを理解し、ハードウェアで実現するというマーの3レベルというものがあるそうだ。

 本章は3つの項に分かれ、まず、アシモフ、ウィーナー等に始まる脳科学とロボット工学の歴史を振り返る。1949年のヘブの法則(2つのシナプスが発火することで報酬があがるというもの)、1950年代のペンフィールドの体性感覚マップ(ホムンクルス)、ミンスキーの「パーセプトロン」等が紹介されている。「パーセプトロン」でニューラルネットの限界が示されてしまい、誤差逆伝搬法が発明されるまでニューラルネット(というか人工知能)は下火になったとか。

 次項では、脳科学がロボティクスに与えた影響が紹介されている。
 ロボット研究者が脳に期待することの代表は学習機能だが、教師有り学習、強化学習、教師無し学習の3種類が、脳では順に小脳、大脳基底核、大脳皮質が担当しているという、大胆な仮説もあるらしい(銅谷)。
 ヘブの法則に基づくヘブ学習は、教師無し学習の代表格だそうだ。すなわち、教師有り学習ではなく教師無し学習が、脳モデルにも必要になってくるということである。確かに、教師無し学習の例として自己組織化マップは良く聞く名前である。

 次に、教師有り学習の例としてフィードバック誤差学習が紹介される。探知してからでは遅れが大きいので、フィードフォワード制御が脳内で行われているという説をもとに、ロボット制御等へも応用される制御則となっている。「頭の動きを前庭系が検知すると、その動きを眼球へフィードフォワードして、網膜像のずれを防ぐように眼球が動く」とのこと。
※個人的には、「脳と視覚、グレゴリーの視覚心理学」という本に載っていた、頭を動かす指令が出ると、同時に画像処理部分に対しこれから頭が動くよというお知らせが行って、頭が動いても像がずれないようになっている、という説が好きだ。確かに、頭を動かしても世界は止まっている。

 強化学習については、銅谷先生の説が紹介されており、強化学習の3つのパラメータ(学習速度係数α、行動選択の逆温度β、報酬評価の割引率γ)を、それぞれ脳内ではアセチルコリン、アドレナリン、セロトニンが担っており、TD誤差にドーパミンが対応しているとのことである。うーん。

 各種学習に対応した脳内部の機能の紹介のあと、ブルックスの名前が出る。ブルックスは(本ブログでも随所で述べているが)「古典的AIが直面したフレーム問題や記号接地問題に対し、反射的なモジュールの組み合わせによりそんなことに悩まずロボットがいきいきと活動できることを示した」。
 ところで、脳は階層構造になっており、除脳という動物実験により、猫の脳をどこまで切除したらどこまでの機能が残るのか、ということを調べた学者がいる(もちろん日本では無い)。その結果、以下が判明しているとのことである。私は除脳ネコの実験は聞いていたが、段階的に切断されていったということは本書で初めて認識した。

  • 脊髄のみにする→屈曲反射等の基礎反射が残る
  • 前庭核と網様体まで→直立姿勢を保つような反射の協調が残る
  • 小脳まで→歩行や転回等の一連の協調運動が出来る
  • 大脳皮質以外を残す→摂食/闘争/性行動などが出来る
  • 全て→複雑な仕事、長々とした作業が出来る

 階層構造であるという話を聞いて、自分が脳モデルの原理の一つとした「反射の積み重ね」だけで知能にたどり着くのか、正直なところ自信が少し無くなった。ブルックスの理論が、制御の多層化であり上層ほど高度なことをやっている、と理解されているのもむべなるかな。しかし、それでは結局のところ上位階層が古典的AIになってしまい、強いAIには行きつかないと思う。

 また、階層構造になっているのは、進化の過程も影響しているであろう。ポール・マクリーンが、脳幹は爬虫類の脳、辺縁系が旧哺乳類の脳、大脳皮質が新哺乳類の脳と唱えたのが有名だそうだ。
 ここで、他の哺乳類のように大脳皮質があるだけでは駄目で、人間のように大脳皮質が極端に大型にならないと、知能のブレークスルーが起きないのであろうと思う。強いAIでは、人間並みの知能を実現したいのだ。それは、プログラムとして与えられていなくても、問題が与えられれば問題を理解し、こうすれば良いのだと思いつくようなAIであり、新哺乳類でも人間にしか出来ない。その大脳皮質の仕組みが、自分の仮説通り探知→反応の積み重ねなのか、教師無し学習が出来るヘブ学習回路なのかなど、今後いろいろ試すことになるであろう。

 

 3つの項のうち最終項では、ロボティクスが脳科学へ与えた影響が述べられている。その中で、谷先生のRNNによる認知の研究については次回詳しく述べる。その他阪大の石黒先生のアンドロイド、ブレインマシーンインタフェース(BMI)の先駆けみたいな話が紹介されているが、本ブログでは省略する。

 

 前々回、探知→行動の反射的動作を強いAIの原理とすると書いたが、本書を読んで、見直しが必要かもしれないと思った(そうではないと信じたいが…)。本書で紹介された脳の階層構造は分かりやすかったが、脳の機能について別の本でおさらいをする。

 また、ロボットフロンティア後編では、谷先生のRNNによる環境と一体化した認知、記号接地問題は無かったという宣言等を詳しく紹介する。


 久々に必読書にした。
 本書が書かれたのが日本のロボット工学の黄金時代の最後の方であり、当時世界最先端の研究が紹介されているということもある。また、自分がもともとはロボット屋であり、強いAIには身体が必要であることがロボットとAIの出会いであり、記号論と組み合わせると、ロボットが無くてソフトウェアだけで構成論的アプローチを進めていいのだ、ということが主張の根本である。本書はロボット屋の視点で書かれており、親しみを感じた。