強いAIの実現方法 ~実践的な作り方~

強いAIの実践的な作り方を検討しています。メイン記事に主張をまとめています。人工知能関係の書評もあり。なお、今後、任意団体として活動してみたいと考えており、手伝ってみたいという方は是非ご連絡下さい。詳しくは、メイン記事の7を参照下さい。

強いAI 行動決定能力と知性の関係について

 前回、以下のように述べた。

・「今はこうしよう」と決定する能力が、強いAIの本質である

 断言するのは言い過ぎかもしれない。ただ、プログラムされていないことを思いつくプログラムを実現するには、行動決定を行う意思を持たせることが必要だと思う。サールは、強いAIの定義を「意識を持つAI」と定義したが、意識を意思と読み替えれば、意思を持つことは結果ではなくて、強いAIを実現する手段なのだ。発想の転換をしてみようではないか。

 もともと、強いAIを作るということは、人間のような知性を工学的に実現したいということである。ここで、意思があれば良い、ということを振り返ると、人間はそもそもそれほど知的に行動しているのか、という考えに至る。
 自分の普段の活動を考えてみても、あれしよう、こうしよう、という行動の選択が主なのではないか。確かに、人間が数学の問題を解こうとする時は知的な活動をしているかもしれないが、作りたい「強いAI」は、数学の問題が解けるAIではない。もっと自由な、例えば月まで行くロケットを実現したり、自動車を発明したりできるAIである。

 あえてロケットを持ち出したのには理由がある。
 月まで行けるロケットは、確かに人類の発明物だが、誰でもそれを発明できるわけではない。むしろ、圧倒的多数の人間は、そんなことは出来ない。そもそも10~20万年前から生物学的にほぼ現在の人間に近いホモ・サピエンスが存在していたようだが、文明と呼ばれるものが生まれたのは4千年ほどまえからであり、急激な産業の発達は産業革命以降の、200年程度の話である。
 すなわち、人類はその知力で、電気、自動車、ジェットエンジン、テレビ、インターネットなどを生み出し、他の動物と比べると圧倒的な知性を誇るわけであるが、個々の人間の知性の働きでそれらをいきなり生み出すことは出来ない。これらは、人間の脳が持つ知的能力だけで生まれたものではないのである。
 むしろ、それらを発明するに人類が必要としたものは、文字を始めとする記録であり、その記録を理解する能力、それを踏まえ、例えば月に行くにはこうすれば良いと思いつく能力である。記録が主な役割を果たしており、最後、月に行くことを実現したいという意思をもった人間が、こうすれば良いと思いついて一押しするのが人間らしい知性であろうと考える。こんなことは、プログラムされたことしかできない弱いAIでは実現できないが、人間、あるいは強いAIも、強大な知性が求められている訳ではなく、記録の理解と、プログラムされていないことを思いつく能力があれば良いのではないか。すなわち、人間の脳は、それほど知的な活動をしている訳ではないということだ。

 なお、行動決定をするにあたっては、寒いから家に戻ろうと思うだけでも、家は暖かい、戻れば暖かくなる、という理解が必要である。すなわち、記憶あるいは記録とそれらの理解、ある行動をした時の結果の予測が求められる。そして、ひらめきの能力、また、行動の結果を予測するにあたり、フレーム問題として知られる探索空間の爆発の防止策が必要である。コホーネンネットワークによる勝利ニューロン以外の抑制が、フレーム問題の解決になる可能性はあると思う。人間は常に学習しているのだ。

 上記を、「探知→行動」という、「判断」の無いループの組み合わせで実現していきたい。

 意思を持ち行動決定が出来るAIを工学的に実現できれば、人間には無い、大容量のメモリを参照するという能力を併せ持つことが出来る。人類は文字に記録することで、脳が持つ記録が曖昧であるというハンデを克服した。言語能力においても、会話が出来るという段階と、識字率とも言える文字を扱う能力の二段階があり、生物学上の限界を越えるという点で、後者が文明の発達に非常に大きな役割を果たしたのであろう。
 強いAIを工学的に実現することで、文字の記録、それを読み理解する脳の容量に頼らず、直接大容量の記録にあたることができるようになる。そうすれば、人間を越えた知能の実現にもつながっていくかもしれない。それが良いことか悪いことかは、まず実現の見通しが出来てから考えましょう(^^) 

 本稿では、ロケットを実現したのは、人間の知性というよりは意思である、という趣旨のことを書いた。実は、日本を代表する経営者でありブログ筆者も尊敬する稲盛和夫が、人類の造り上げたものは人類の意思の反映である、と述べていたことがあった。AIの考察からも同様の結論になったのが、私としては嬉しいので付記しておく。