しばらく実業が慌ただしく手がつかなかったが、少し落ち着いたので、気を取り直して再開する。考えを再整理すると以下の通り。
- AIには意味が分からないので、人間の知性は実現できないという意見がある
- 意味とは、外界―身体―脳の相互作用である
- 構成論的アプローチ等、ロボットを実世界で動かして知的なことをやらせる「人工知能には身体が必要派」があるが、現時点では、昆虫レベル以上の成果が上がっていない(行き止まりを戻れない等)
- 一方ソシュールによれば、意味とは差異である。従って、外界―身体―脳の相互作用を実現するためには、外界―身体は脳にとって差異の表現となっていれば良く、必ずしも実環境である必要は無い。
- また、ソシュールによれば、人間は言葉で知っていることしか意味・あるいは概念として扱わない。
- したがって、脳の「外側」に、辞書に載っている単語レベルで外界―身体モデルを作ることで、ソフトウェアのみで外界―身体ー脳(=AI)の相互作用を再現でき、AIは意味を取り扱えるようになる。これが、AIが意味が分からない、ということに対する突破口になるであろう。
(すなわち、ソフトウェアのみでも構成論的アプローチは出来るのである。むしろ、ハードを使うことによる煩わしさから解放される) - 人間のような知性を持つAIを作りたかったら、脳を記号化するのではなく、外界-身体を記号化すべきなのだ。これを実現すれば、少なくとも記号接地問題が無い環境で脳の学習が図れる。
- 記号に着目するという意味では記号創発ロボティクスという分野があるが、彼らは実世界でロボットを動かしロボット内で記号を創発、学習することに主眼をおいており、立場が違う
- 最近話題になっている世界モデルは、脳の「内側」に外界モデルを作ろうというものであり、外界-身体-脳のうち身体という概念が抜けているかもしれない。ただし、人間は視力で画像を見ておらず3次元区間を見ているので、世界モデルという考え方自体は正しいであろう。これは、錯覚の発生する理由を考えれば分かることである。
今後、以下を順番に整理していく。
- 外界モデルの要件と作成方針
- 身体モデルの要件と作成方針
- 脳モデルの要件と作成方針
- 全体を通しての要件と作成方針
- 使用言語、構築すべきコンピュータ環境等
基本的には、辞書に載っている単語を出来るだけモデルで表現することになる。食べ物は比較的簡単だが、友情・勝利・政党等、抽象的な概念もモデルとして表現されると良い。
ただし、完全に実世界を模擬する必要も無い。最終目標は人間のような知性をソフトウェアで実現することであり、ブルックスの主張である「生物が複雑な動きをするのは環境が複雑だから」という言葉に従えば、知性が出現するぐらい複雑な環境と、大容量の脳を用意すれば良い。
多数のエージェントがいること自体が個々のエージェントにとって複雑な環境になるので、狩猟時代に人類の周りにあったであろうレベルの環境、そしてエージェント間の相互作用を言語で行うことで、知性が出現するに十分な複雑性をもたらせるのではないかと期待する。
エッセイ的な表現になるが、人間の知性そのものが、探知して行動するという生物の原理が複雑になり、特異点(シンギュラリティ)を超えたものと考えられる。探知―判断―行動のループでなくて、探知―行動のループを複雑にすることにこだわりたい。その道で生物界がシンギュラリティを起こせたのだから、AIでシンギュラリティを起こすにも、同じ道を辿るのが一つの方法であることは明らかだ。
この短文でも、モデル化にあたっての方針がいくつか示されている。
・狩猟時代ぐらいを想定したモデルにすること
・複数のエージェントが存在すること
・エージェント間は言語等の記号でお互いにやり取りができること。
・そもそもとして、脳が身体を通じて探知し記号化した差異を、外界―身体―脳それぞれのモデル化により表現していくこと。
次回以降、上記の方針に基づき個々のモデルについての要件を整理していく。そして、使用する言語まで決めた上で、実際のコーディングに入っていく。
今後出来れば、サラリーマンが休日に作業して何かをやり遂げるような、任意団体として活動していきたいと考えています。空飛ぶ車とか人工衛星が任意団体で作られているようですので、「強いAI」を作る任意団体があってもいいじゃない。
一応、全く更新をしていない時にも月に100件ぐらいはアクセスがあったようですので、手伝ってみようという方は是非ご連絡下さい。特に失うものも無いはずです(時間?) t-mori@na.rim.or.jp