強いAIの実現方法 ~実践的な作り方~

強いAIの実践的な作り方を検討しています。メイン記事に主張をまとめています。人工知能関係の書評もあり。なお、今後、任意団体として活動してみたいと考えており、手伝ってみたいという方は是非ご連絡下さい。詳しくは、メイン記事の7を参照下さい。

「強いAI・弱いAI」(7) 人工知能関連書

「強いAI・弱いAI」 鳥海不二夫著 2017年 丸善出版

 本ブログのテーマである、強いAIについて正面から日本の最新状況を語っている。9人の日本を代表する専門家へのインタビューであり、1回で全部の感想は書き切れないので、1回づつにしてみた。今回が、第8回ということで、この本のあと残りは1回。

第8回 大人のAI・子どものAI 栗原聡(電気通信大学教授)

 タイトルの大人のAIと子どものAIというのは、現状のAIが、例えばチェス等の大人が得意なものが得意であるが、子どもにも出来る簡単なことが出来ないことを指している。ただ、栗原先生は、AIは子供に出来ることが苦手というよりも、そもそもそういう問題を解くように出来ていないので、別物と考えた方が良いと述べている。すなわち、弱いAIをいくら頑張っても強いAIにはならないし、強いAIは弱いAIの延長線上にはないということである。弱いAIの例としてワトソンがあげられている。
 大人のAIは、弱いAIのことを指していると思うが、身体動作を必要としない、考えたり思考したりする頭脳労働が得意であり、一方子どもは体を使ったノンバーバルなやりとり(非言語コミュニケーション)が得意である。実際の弱いAIの特徴を上手く表しており、良い例えかもしれない。後に出てくるが、子どものAI実現にあたり栗原先生が注目しているのは身体性(=非言語的)である。

 ディープラーニングが子どものAIになるか、という点では出来ないと述べている。子どもは猫を数回見たらネコを覚えるだろうが、ディープラーニングでは莫大なデータを読み込ませて学習させる必要がある。なお、ディープラーニングの利点として、画像という限定された情報でも概念獲得が出来ることをあげている。ネコが出てくるのは、Googleがネコ動画を大量に見せてネコの概念をAIに獲得させたというエピソードが有名だからであろう。

 次に、AIが感情を持つことが出来るかという点について、人間の場合でも、他人から見て感情を持っているなと見えれば感情を持っていると認定できるので、AIにおいても、感情を持っているように振るまえれば良いのではないかとの見解を述べている。これは独特な考え方だと思う。ただ、感情があれば強いAIという訳では無くて、強いAIには自律性とメタレベルの目的が必要であり、無数のタスクの中から最適なタスクをリアルタイムで選択する、それには意識や自我が必要なのではないかとのこと。フレーム問題の事ですね。脳は、この最適なタスクを瞬時に選択する能力が凄いのである。

 以下、画像だけでは無くて音とかも加えたマルチモーダルでのディープラーニングが流行っているが、別のセンサ情報を個別にネットワークに入れているだけなのでマルチモーダルでは無い、コンテンツ生成を行うGenerative Adversarial Netはディープラーニングを逆に動かしているだけ、Q学習も、最適解を探すのであって新たな行動を生み出すわけでは無い、と、しばらく栗原先生からのダメ出しが続く。マルチモーダルについて、複数のセンサを使いましただけでは駄目であるという点はブログ筆者も全面的に賛成である。

 栗原先生が、では強いAIを実現するために何が必要かということでキーワードとしてあげているのが「身体性」である。ブルックスのサブサンプションアーキテクチャとルンバが紹介されている。
 そして、実空間で動作し、もちろん身体を持ち、人とのインタラクションを行う自律システム、実世界で動き回るものを作るのが重要とのことである。

 残念ながら、身体性については30年前からブルックスが提唱し、その概念に基づき実空間でロボットを作る試み(*)が既になされてきたが、上手くいっていない(=強いAIは実現していない)。ブログ筆者の見解は、実空間でロボットを動かしても上手くいかないから、ソフトウェア空間で行うべき、そして外界と身体を複雑に作り込むべきということなので、栗原先生の見解には賛成できない。
 30年前に話が戻っているように思えるし、今まで上手くいかなかった点を分析し、突破口を見出した上で実空間で行うなら価値があるかもしれないが、本記事ではそこまでは分からなかった。

 なお、対談相手の鳥海先生のご発言で気になったものが二つあった。

「強いAIは意識を持ったAIと定義されています」→そんなことはないと思ったが、wikipediaではそのようにも書かれていた。用語の発案者の哲学者サールの趣旨ではその通りかもしれない。意識は十分条件であり、必要条件では無いと思うのだが。

「ルンバのエッセンスが強いAIに結び付くとは(驚きですね)…」→30年前からブルックス、ファイファー(R.Pfeifer教授)が提唱していることだと思う。

*)実空間でロボットを作る試みとして代表的なものは以下である。
ブルックスのMITでの業績、ファイファー教授のチューリッヒ大学での業績、ソニーダイナミクスインテリジェンスとそこに関わられた多くの大学研究者(浅田先生、國吉先生、谷先生、細田先生等)、文部省特定研究領域「移動知」。