強いAIの実現方法 ~実践的な作り方~

強いAIの実践的な作り方を検討しています。メイン記事に主張をまとめています。人工知能関係の書評もあり。なお、今後、任意団体として活動してみたいと考えており、手伝ってみたいという方は是非ご連絡下さい。詳しくは、メイン記事の7を参照下さい。

「脳・身体性・ロボット 知能の創発をめざして」 人工知能関連書

インテリジェンス・ダイナミクス
「脳・身体性・ロボット 知能の創発をめざして」
土井利忠/藤田雅博/下村秀樹編 2005年 シュプリンガー・フェアラーク東京

 かつて1990年代、日本のロボット研究が世界の最先端であった時代があった。ASIMOの前身のP2の2足歩行は世界に衝撃を与えたし、1999年に発売されたAIBOは約15万台を売り上げ、世界中の大学でAIBOを使った研究が行われていた。
 ひるがえって2018年、日本ロボット学会学術講演会のオープンフォーラムにおいて、「主要な国際会議における日本からの投稿数、論文採択率の低下が進んでいる」現状が議論されている。ロボット研究において日本が存在感を失っているという現状を見据えたものであり、認知工学の第一人者で在られ、かつロボカップを提唱し世界をリードした浅田稔先生がオーガナイザーであった。ガラパゴス化はロボット研究でも進んでいるのである。

 本書は、まだ日本のロボット研究が輝きを失っていなかった時代、ソニーが2004年に「インテリジェンス・ダイナミクス研究所」なる研究機関を立ち上げ、身体性をベースとしてこれまでにない有り方でロボットの知能化を進めようとした際の、当時の一連の成果をまとめたものであり、3冊が上梓されている。

 「インテリジェンス・ダイナミクス」とは関係者の造語であり、ダイナミクスという言葉に「動き」の意味が込められている。ようは環境との相互作用においてロボットの知能化を進めようというもので、ブルックスの唱えた身体性の言葉を置き換えたものだと思う。実際、本書の中でもブルックスは頻繁に言及されている。
 余談だが、2005年からの文部省の特定領域研究「移動知」もまた、言葉を置き換えたものだと考えられるが「SLAMも移動知である」という文言がHPに記載されており、違和感が拭えない。SLAMは計算で解が求まるのだから、古典的AIの延長にあるように思う。

 しかし、ソニーがロボットの知能化研究のために「インテリジェンス・ダイナミクス研究所」を立ち上げる、という行為自体が今では考えられない。ソニーの土井先生、藤田先生はAIBO、およびQRIOを世に送り出した方々であり、ソニーもその言葉をないがしろには出来なかったのか。ただし、2006年、前年にソニーの実権を握ったストリンガーCEOの指示により、AIBOQRIOから撤退するとともに、当該研究所も廃止されている。2004年から2006年の2年間の活動であった。

 インテリジェンスダイナミクスシリーズの第1冊目である本書は2005年にまとめられ、浅田稔先生、BMIの第一人者である川人光男先生、力学系を用いた環境との相互作用による知能化を研究されている谷淳先生、現在もソニーで活動されている藤田先生と、当代第一線の研究者による研究成果が報告されている。15年程も昔の、まだディープラーニングが無い時代の成果であり、特に谷先生の研究は、力学系をキーワードとし、まさしく環境との相互作用が知能の源泉であるという核心をついた研究でありながら難解で、最終的に強いAIへの道が切り開かれたとまでは言えないが、日本が最先端をいっていた時代を感じられる良書だと思う。ブログ筆者としては、ブルックスの身体性の意義を学ぶのに大変参考になった。よって、必読書扱いとした。

 2018年、藤田先生等のご尽力により、実は新型AIBOが発売されている。ソニーがロボット事業から撤退しなかったら日本のロボット研究の凋落は防げたのであろうか、これから復活できるのであろうか、考えさせられる出来事である。少なくとも、とがった技術とセンスで世界に半歩先んじるという、今ではアップルやグーグルに奪われてしまった看板を、ソニーが取り返すチャンスにはなるのではないか。

 なお、藤田先生が担当された本書の第5章において、二足歩行ロボットQRIOアーキテクチャが紹介されているが、ブルックスの提唱した、環境との相互作用で動作する反射型アーキテクチャを下層におき、上層で高度な判断を行うハイブリットアーキテクチャとなっている。ブルックスを誤解している典型的な例ではないかと思う。AIBOQRIOともブルックスの研究を学んで生まれたプロジェクトなのだから、もう少し反射型アーキテクチャを中心にすれば、違う方向で賢く出来たのかもしれない。土井先生は、あまりにQRIOの頭が悪いので「馬鹿だな」と頭をはたいてしまったことがあるそうな。

 ブログ筆者は旧型AIBOはいじったことがあるが、自律したロボットであるとは感じられなかった。新型AIBOでもハイブリットアーキテクチャのままであれば、抜本的な改善は望めないと思うが、旧型時代には無かったクラウド等の技術で、大幅に改善されるかもしれない。作り込み+クラウドで勝負できるのか、やはり作り込みでは駄目なのか、その点でも新型AIBOは興味深い。