強いAIの実現方法 ~実践的な作り方~

強いAIの実践的な作り方を検討しています。メイン記事に主張をまとめています。人工知能関係の書評もあり。なお、今後、任意団体として活動してみたいと考えており、手伝ってみたいという方は是非ご連絡下さい。詳しくは、メイン記事の7を参照下さい。

「人工知能はこうして創られる」(前編) 人工知能関連書評

人工知能はこうして創られる」(前編) 合原一幸編著 2018年 ウェッジ

 前編と後編に分けて記載する。合原一幸教授は、ニューラルコンピュータを専門で研究されており、30年前に「ニューラルコンピュータ」という本を上梓され、「AI研究の行き詰まりを打破」という帯が話題を読んだとのこと。いずれ紹介することがあるかもしれないが、カルフォルニア大学の哲学者チャーチランド著「認知哲学」1997年でも、ニューラルネットが出来たから強いAIも出来る!という論調だった。そういう時代であったのだろう。

 ひるがえって、2018年において合原一幸の論調は、シンギュラリティの全否定である。強いAIの全否定でもある。ニューロンの仕組みが複雑でありアナログ的な要素が強くデジタルでは再現が難しいこと、シンギュラリティの根拠は指数関数的発展だが指数関数的爆発は抑制作用もあること、ムーアの法則もかげりが見えていること、神経網の中心である軸索にはカオス作用がありノイズもあるのでデジタルでは再現できない、等、論拠を並べている。また、ディープランニングではなく、非線形時系列解析技術、少数データによるサンプル技術という、注目して良い技術についても述べられている。ブログ筆者は個人的には、ニューロンのアナログ回路的な仕組みを完全に再現しなければ知性が再現できないかどうかは分からないので、強いAIを否定する論拠にもならないと思う。

 6名の第一人者が1章づつを分担されている。合原先生の担当は第1章だが、第3章の金山氏はIBMでWatson開発にたずさわっておられた方で、クイズ解答という課題に対する具体的な対処方法が解説されており興味深い。東大ロボに関連し世界史の問題にもチャレンジしたという。IBMの思想はコグニクティブコンピューティングというキーワードでまとめられ、医療や経済に知的に役立つ有用なシステムを、大規模な学習、目的に基づいた推論等の要素技術を通し開発していくとのこと。

 第4章は東京大学河野崇先生が「脳型コンピュータの可能性」というタイトルでまとめられており、低電圧で動くニューロンを模擬した回路についてアナログ、デジタル両者の最新動向が解説されている。ニューロインスパイアードシステムとニューロミメティックシステムと分類され、前者が簡易な模擬、後者がひたすら詳細な模擬を目指すというもの。脳の消費電力が20Wというのがどうしようもなく驚異であることが分かる。河野先生の研究室では、シリコンニューロン回路の課題であるアナログ回路素子特性ばらつきについて、特性を個別に調整できる独自手法を開発し、ニューロンの複雑な神経活動(パルスがある程度持続するとかすぐ切れるのがあったりとか)を再現できるとのこと。さらなる省電力化に向けて開発を進めており、今後の成果が期待される。

 全般に、現在の第3次AIブームから一歩離れた視点でまとめられており、タイトルから想像した内容と若干違ったが、勉強になる1冊だと思う。残り2章の内容は後半にまとめる。