強いAIの実現方法 ~実践的な作り方~

強いAIの実践的な作り方を検討しています。メイン記事に主張をまとめています。人工知能関係の書評もあり。なお、今後、任意団体として活動してみたいと考えており、手伝ってみたいという方は是非ご連絡下さい。詳しくは、メイン記事の7を参照下さい。

目次にかえて

以下に分けてエントリーしていきます。ほんとはHPが良いのですが、取り急ぎブログで。

簡単にまとめると、
①弱いAIは意味が分からない。AIの出力結果に意味を与えているのは観測者の人間である。
人工知能を作るには身体が必要という身体性のアプローチがあるが、実世界でロボットを動かしても、ブレークスルーには至っていない
③意味は外界にあり、AIが意味を扱うには、外界-身体-AIのシステムが必要である
④人間は意味を言語で扱っており、言語はソシュールによれば差異の体系であるから、ソフトウェアで外界-身体を作り差異を表現すれば、ロボットを実世界で動かさずともAIが意味を取り扱えるようになる。
人工知能を作るには身体が必要との主張は正しいと思うが、実世界でロボットを動かすことにこだわらず、外界-身体をソフトウェアで作っても意義があり、かつ実験性が飛躍的に向上することで、強いAIへの道が開けるであろう。
⑥人間は言葉で世界を認識しているのだから、外界-身体も言葉レベルで再現し、その中で深層学習を始めとしたAI手法をいろいろ試せばよい。ヨハネ福音書のごとく「はじめに言葉ありき」である。

1. 意味が分からない弱いAIたち

2. 人工知能には身体と外界が必要である(1)
 -ロボット工学における身体の必要性-

3. 人工知能には身体と外界が必要である(2)
 -意味は外界にある-

4. ソシュール記号論による、AIが意味を取り扱う実践的な方法

5. 本項の主張による実践的な強いAIの作り方と、他アプローチの比較

6. -はじめに言葉ありき- 考え方のまとめ

7.  後記 事業化に向けて。参考文献等

4 ソシュールの記号論による、AIが意味を取り扱う実践的な方法

前項において、意味を取り扱うには、外界-身体-脳のシステムが必要であることを示した。意味を取り扱うことは、強いAI実現のブレークスルーとなりうるものと考える。
本項では、ソシュール記号論を元に、実践的に外界などを表現する方法を示す。

結論:

意味は差異の体系であり、外界-身体は、差異の表現ができれば良く、従来の身体性アプローチのようにロボットで身体を作る必要は無い。
代わりに必要なのは、外界-身体ソフトウェアであり、かつ、実世界の詳細なシミュレーションではなく、辞書レベルの精緻さがあれば良い。

 

ソシュールの思想」1981岩波書店によれば、意味とは差異である、とソシュールは主張している。ビールであれば、世界の他のあらゆるものとは、炭酸のアルコール飲料で色が黄色、麦で出来ている等の違いがビールの意味である。味の違いが分かれば、キリン一番搾りとかスーパードライ等の違いが出てくる。


この主張から、以下のことが導かれる。
すなわち、身体性アプローチにおいてロボットを使って実世界で動かしていたが、意味を扱うためであれば、必要なのは実世界そのものではない。外界は身体を通し差異を認識出来れば良いため、差異さえ表現できれば、外界と身体はソフトウェアで構築しても良い。

また、ソシュールは、「人は名前を知っているものしか認識でない」と言っている。知らないものを見た時、これ何?と聞いて、名前を聞いて満足するのは、まさしくこの原理であろう。
ここから、前段で構築しようとした外界-身体ソフトウェアにおいて、辞書レベルの内容を表現できれば、AIが人間と同じように意味を扱うのに十分であることが分かる。辞書の語彙は数万から10数万個であり、これは有限の努力で実現できるであろう。

この、有限の努力で外界ー身体ソフトウェアが実現できるというところが、筆者の主張する強いAIの実現方法が実践的であるゆえんである。

※文章で表現される事象は、組み合わせになってしまい、有限と言い難い可能性はある

なお、意味は差異の体系であるということから、外界は正しくは世界としなくてはならない。意味を扱うシステムとは、世界-身体-脳(AI)の三位一体のシステムである。

また、話がそれるが、ソシュールの二番目の主張は、記号こそが概念を作るということである。すなわち、記号接地問題は無い、ということを言っていると思われる。ビールという記号を知ることで、人の中にビールという概念が出来るのである。

より分かりやすい結論:
意味をAIが取り扱うには、外界ー身体ソフトウェアを、辞書レベルの精緻さで構築すれば良く、これは有限の努力で実現できる=実践的であろう。

3 人工知能には身体と外界が必要である(2) 意味は外界にある

以下の二つの観点から、強いAIを作ろうした際には、脳にあたる部分だけではなく、外界と身体の準備が必要であると考える。今回はその(2)

(1)ロボティクス分野からみた身体の重要性
(2)意味は外界にある

 

結論:

人工知能が人間と同じように意味を扱うには、「外界」、および外界との相互作用をつかさどる「身体」が必要。すなわち、外界ー身体ーAIのシステムである。


(2)意味は外界にある

講談社現代新書「ロボットの心」において、チューリングテストの反論である中国語の部屋への反論として、柴田氏が以下の指摘をしている。

・ビールの意味は、ビール本体が持っており、中国語で呼ぼうがなんだろうが関係ない。すなわち、意味は外界にある

弱いAIが決して強いAIになれない原因の一つに、意味を扱えないということがある。例えば、ワトソンがクイズ番組で優勝したとしても、ワトソンは入力に対する出力を提示しただけであり、その出力が正解であるとか、クイズ王を倒したというようなことは、周りの人間の解釈であり、クイズに勝ったという意味は周りの人間が与えている。クイズに対する答えについても、意味を考えて答えたわけではなく、機械学習を含むプログラミングの成果であり、ワトソンが意味を扱っている訳では無い。

柴田氏の主張は、チューリングテストでビールの話をしてまともに受け答えをしたとしても、実態としてAIがビールを飲んで酔っ払ったり苦いと思ったわけでは無いので、AIはビールの意味を分かっていないということである(単純化し過ぎているかもしれず、その責は筆者にあり、柴田氏にはありません)。
すなわち、AIがビールの意味を理解するには、ビールを飲んで酔っ払うというか、人間と同じ相互作用をビールとの間で確立できる身体と、ビール本体=外界が必要であるということだ。
まとめると、意味を扱うシステムは外界-身体ー脳の3つで成り立っているということである。これは、文部省特定領域研究「移動知」で、環境-身体-脳の相互作用がテーマだったことにも通じる。

(1)ではAIには身体が必要と述べたが、身体は外界との相互作用に必要な要素であり、正確には、外界-身体-AIが必要である。
ブルックスは身体の必要性について環境との相互作用のためと言っており、まさしく上記の事を主張している。

2 人工知能には身体と外界が必要である(1)ロボット工学からみた身体の必要性

 

以下の二つの観点から、強いAIを作ろうした際には、脳にあたる部分だけではなく、外界と身体の準備が必要であると考える。今回はその(1)

(1)ロボティクス分野からみた身体の重要性

(2)意味は外界にある


結論:
ブルックス等の著名なロボット工学者を含め、ロボティクス分野においては、人工知能には身体が必要だとの主張がある。
 

(1)ロボット工学からみた身体の必要性
ブルックス、及びファイアーは、その著作において、記号論的な人工知能のアプローチを否定し、人工知能には身体が必要であると主張した。環境と身体との相互作用が知能を生むという主張である。

特にブルックスは、以下の明快な主張をしている。

①表象無き知性という論文において、探知→判断→行動というループを否定し、探知→行動が生物の本質であるとした。

②生物が複雑な動きをするのは環境が複雑だからである

③まず、環境の中でロボットを動かせ

 

探知→判断→行動というのは、自動車メーカーが自動運転に取り組む際にも好むアプローチであり、これを当然の摂理として無批判に受け入れるロボット関係者が多いと思われる。人工知能のブレークスルーが生まれない理由の一つが、このループを捨てきれないところにあると筆者は考える。すなわち、ブルックスが否定する「判断」のブロックこそ、if文のかたまりであり、記号論的なアプローチになってしまっている。

サブサンプションアーキテクチャを採用する研究者もいるが、下層はブルックスの言う通り反射的な動作を構築しても、上層にて高度な判断として記号論的アプローチを導入してしまう例が多く、身体性の効能を台無しにしてしまっており、自らブレークスルーへの道を閉ざしているとしか思えない。
身体性にこだわるなら、探知→行動を徹底すべきであり、これを徹底できないから身体性が成果を上げられていないのだ。

 

もっとも、ブルックスの主張は1980年代後半からロボティクス界では広く知られており、一時期は大いに期待され研究もされてたが、期待されたように知性を実現できるには至らなかった。

その原因の一つとして、やはり判断→行動のループでは単純なことしか出来ない
→その対策として高層に高度なループを加える
というのは自然な発想ではある。

別の原因として筆者が指摘したいのは、
・人と比べロボットが単純すぎる(リンゴを人間と同じように認識するなら、味覚嗅覚食欲歯ごたえ等が必要。詳細は別記事)
・実世界で実験を繰り返すのが大変
・当時のコンピュータでは機械学習能力が不十分

という点であり、このブログでの主張は、これらの問題点を克服する実践的アプローチとも言える。