強いAIの実現方法 ~実践的な作り方~

強いAIの実践的な作り方を検討しています。メイン記事に主張をまとめています。人工知能関係の書評もあり。なお、今後、任意団体として活動してみたいと考えており、手伝ってみたいという方は是非ご連絡下さい。詳しくは、メイン記事の7を参照下さい。

「強いAI・弱いAI」(6) 人工知能関連書

「強いAI・弱いAI」 鳥海不二夫著 2017年 丸善出版

 本ブログのテーマである、強いAIについて正面から日本の最新状況を語っている。9人の日本を代表する専門家へのインタビューであり、1回で全部の感想は書き切れないので、1回づつにしてみた。今回が、第7回ということで、この本のあと残りは2回。

 第7回:全脳アーキテクチャ 汎用人工知能の実現 山川宏(ドワンゴ人工知能研究所所長、全脳アーキテクチャイニシアティブ代表)

 満を持して、全脳アーキテクチャ研究の代表を務められている山川先生である。全脳アーキテクチャイニシアティブは、2013年頃からシンポジウム、ハッカソン、勉強会等の活動を開始し、2018年においても半年に1度のペースで勉強会が開かれている。勉強会のテーマは多岐にわたり、一言では紹介出来ないのでHPを参照されたい。記号創発ロボティクスも入っているなぁ。

 山川先生の目指すところは汎用人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)の実現であり、そのための手段として脳の機能をフルに再現していこうという全脳アーキテクチャを推進されている。
 本書では、汎用人工知能と強いAIの違いが話題になっている。汎用人工知能とは、あくまで一般的な問題を人間の知能と同じように解決できるというものだが、本書全体の取りまとめである鳥海先生のイメージする強いAIは、人間と似たように意識があるのではないかということで、山川先生としては、汎用人工知能はあくまで問題解決能力を重視しており、意識が無いと駄目という立場ではないが、意識が無いと汎用人工知能が実現できないということは有り得るかもしれない、とのこと。例えば異なる概念を結び付けるバインディング(死んだ+猫=死んだ猫等)には意識が重要な役割を果たしているかもしれないらしい。

 また、なぜ脳を模範にするのかという点で分かりやすい議論があり、飛行機は鳥を真似ないで飛ぶことを実現したから、知能も脳を真似なくて良いのではないかという良く言われる例えに対しては、唯一汎用人工知能を実現しているシステムが脳であるから、現段階ではそれを真似しない手は無い、とのこと。

 全般的に、脳の具体的な機能をベースにした説明があり、大脳新皮質は学習が遅いが個別の問題解決能力を受け持つ、大脳基底核強化学習能力、小脳は運動制御制御をするが上手く行く回路だけが長期的に残っていく、海馬が短期記憶を圧縮して記憶するなど、が紹介されている。以上は概略だが、細部まで脳の機能を分析し、それを全部組み合わせることで全脳アーキテクチャを完成させる、というイメージであろう。

 ただ、本書を拝見しても、全脳アーキテクチャイニシアチブのHPを読んでも、まだ、こうすれば汎用人工知能は実現できる!という具体的な方法論が確立されている訳では無い状況である。完成目標時期は2030年であり、シンギュラリティのカーツワイルが人間並み知能の実現を2029年としているのと同時期だそうだ。

 ブログ筆者は、脳が複雑なのはマルチエージェントを含む環境が複雑だからであるという身体性の立場を一貫して取っているので、複雑な環境の学習結果であるところの脳を分析するより、複雑な環境を作るべきであるとの意見であるが、目指すところ、すなわち人間並みの知能を工学的に再現したいという思いは同じである。なお、東大の國吉康夫教授の主張である「Body shapes Brain」(身体が脳を形作る)も、「外界」が抜けてはいるがブログ筆者の見解と同じであり、身体性を重視する考えも、それほど異端では無いはず。

 細かい気づきを記載しておく。
 本文中にて、汎用性の無い人工知能アルゴリズムの例としてブルックスのサブサンプションアーキテクチャとそれが搭載されているルンバがあげられている。
 だがしかし、サブサンプションアーキテクチャこそ、リアクション型とも呼ばれ、環境との相互作用により汎用性を獲得することを目指したアルゴリズムであり、古典的な記号論人工知能とは異なるのだから、逆に、汎用性を目指している例としてあげるべきである。ブログ筆者が別文章にまとめているが、サブサンプションアーキテクチャは有名なだけに、誤解も多いのではないか。