強いAIの実現方法 ~実践的な作り方~

強いAIの実践的な作り方を検討しています。メイン記事に主張をまとめています。人工知能関係の書評もあり。なお、今後、任意団体として活動してみたいと考えており、手伝ってみたいという方は是非ご連絡下さい。詳しくは、メイン記事の7を参照下さい。

「知能の原理」 -身体性に基づく構成論的アプローチ- 人工知能関連書評

「知能の原理」 R.ファイファー著 2010年 共立出版

 私の手元にあるのは、ファイファー教授のサイン本である。2013年、ドイツで開かれたロボット学会にて、自分の研究を見て頂いた際にサインを頂いたのだ。一応自分も、ロボット研究者としての仕事をしているのである。

 サブタイトルが示すように、人工知能には身体が必要である、ということを貫いている著作である。その根拠として、環境との相互作用により知的な振る舞いを行う実験成果等がふんだんに解説されている。そしてそれらの集大成として、人工知能には身体が必要であるということが導かれている。いくつか、印象に残っているトピックを紹介する。

  1. 受動歩行
     坂道を、動力無しで2足歩行で歩いて下って行く機械のことである。著者の主張する知能の原理の一つ、チープデザイン、すなわち単純であることの例として紹介されている。モータで平面を歩いたりする例もある。環境との相互作用により知的に振る舞う例である。ちなみに、受動歩行機械の動き方が自然に見えるのは、私は、自然が動かしているからだと思う。

  2. 四足歩行ロボット パピー
     ランニングマシーンに四足歩行ロボットを載せて、ベルトの速度を変えると、自律的に四足歩行のモードが例えばトロットとかギャロップに変わる、ということが説明されている。各脚には単純なバネと、足の先の圧力センサ、そのセンサを入力としてモータへ出力を出す単純なニューロンがあるだけである。
     動物の歩容は、環境との相互作用によりエネルギー状態が相対的に小さい幾つかのアトラクタに収束するのであり、それをロボットで証明した研究である。馬がトロットにしようとかゆっくり歩こうと思って意識的に制御パターンを変えているのではない。速く移動しようと思ったり遅く移動しようと思ったら、最もエネルギー状態が低い状態に自然に収束する。骨折して松葉づえを使う時には、松葉づえを使って上手く歩けるようになるが、同じ原理を使っているのだ。

  3. CPG 中枢パターンジェネレータ あるいは除脳ネコ
     パピーの例は、脊椎動物に共通するCPGの作用である。脊髄に埋め込まれたニューロンが、筋肉に対しリズム的に収縮や弛緩の指令を出しており、四肢はそれに基づいて動いているのだ。だから、人間はリズム運動が得意である。人間が階段を高速で降りることが出来るのは、まさしくCPGの作用である。途中で段が違っているとものすごく歩きにくいだろうが、幸いそういう階段はないので、リズム運動で降りていける。
     その直接的な例が除脳ネコといい、中脳より上の脳を切断してしまった猫をベルトコンベアにおいても、4足歩行が出来るという実験結果である。人間も、脳が無くても2足歩行が出来るのかもしれない。

  4. ボイド(Boids)
     群知能と言えばボイドであるわけで、本書でもマルチエージェント(群知能)による創発の例として紹介されている。鳥の群れが、極めて単純な3つのアルゴリズムにて再現できるというものだ。映画でも、鳥の群れをCGで再現する時などに使われているそうである。ロードオブザリングとか。

 以上は、環境との相互作用により知的な振る舞いがある例として挙げられているが、では最終的に、強いAIの作り方がこうだ!というわけではない。記号接地問題についても触れられているが、アトラクタが概念ではないかとか、仮説に留まっている。

 ファイファー氏は、近年はソフトロボティクス等、興味の対象を変えられてしまった。2014年にチューリヒ大学の職を退職され、大阪大学等で活動されているとのこと。

 ロドニーブルックスも産業用ロボットに取り組むなど、お2人とも人工知能から軸足を移されてしまい、残念でならない。成果が出なかったからであろうか…